経産省の調査を基に動物病院業界の現状を整理した上で、どのような課題があるのかを解説します。
また、課題の解決策や予防策も併せて紹介しています。
動物病院とは

動物病院とは、ペット動物の診療を目的として、獣医師が開設した病院のことです。
名称には規定がないため、犬・猫といった愛玩動物を対象に診療する「ペットクリニック」「アニマルクリニック」や、牛や豚などの産業動物を扱う「家畜病院」などさまざまな名称が付けられています。
動物病院の業務としてイメージされるのは動物の病気やケガの治療です。
しかし他にもワクチン接種や定期的な健康診断があり、業務内容は様々です。
また、動物病院は規模や診察内容によって以下の4つに分類されることもあります。
- 地域の動物を見るかかりつけ動物病院
- 眼科や腫瘍化など各分野に特化した動物病院
- 夜間や救急に対応する動物病院
- 大学付属の動物病院
上記のように、一般的な治療や予防を行う動物病院から、専門的な分野に特化した動物病院、高度医療が可能な二次診療の動物病院まで、顧客のニーズに合わせてさまざまな動物病院があります。
規模や診療内容は動物病院によって様々です。
動物病院の現状は
動物病院の課題を把握するために、まずは業界の現状を知ることが大切です。
そこで動物病院やペットの数の推移など、動物病院の現状を詳しく解説していきます。
動物病院の増加

動物病院の数は年々増加している傾向にあります。
農林水産省の「飼育動物診察施設の開設届出状況」によると以下のように推移しています。
年度 | 全国の動物病院の数 |
令和元年 | 16,096 |
令和2年 | 16,234 |
令和3年 | 16,478 |
上表のように、動物病院の数は近年ゆるやかに増加しています。
また動物病院の数は関東や大阪などの3大都市圏に集中しています。
その割合は、3大都市圏だけで全国の動物病院の約45%を占めています。
中でも特に動物病院の数が多いのが東京です。
令和3年の時点で1,884件あり、全国の動物病院の約11%が東京にあります。
また診察する動物で分けると、犬猫などの小動物を診療をしている病院が多いです。
その数は全国の動物病院数16,478件中12,435件と約75%の割合です。
動物病院の半数以上は1人獣医師

農林水産省によると60%の動物病院が、獣医師が1人しかいないという状況です。
獣医師が1人で院長を兼任し、そこに看護師を数人雇うという体制をとっています。
獣医師が1人だと毎日の診療業務に追われ、人材確保や集客に充分な時間をとれません。
そのうえ新たな知識を得られる研修や学会に参加しにくくなります。
また獣医師が3人以下の動物病院が全体の75%を占めています。
このことから全国的に見て小規模な動物病院が多いことがわかります。
小規模な病院の中には夫婦で経営している動物病院も多くあります。
実際、獣医師2人体制の動物病院の半数は夫婦経営だ、とも言われています。
このように、勤務医がいない小規模な病院が大半を占めているのが現状です。
ペット数の減少

一般社団法人ペットフード協会による令和3年の「全国犬猫飼育実態調査」によると、猫の飼育頭数は2013年以降ゆるやかに増加していますが、犬の飼育頭数は減少傾向にあることがわかります。
具体的な全国犬猫推計飼育頭数の推移は以下の通りです。
犬 | 猫 | |
令和元年 | 757万9千頭 | 876万4千頭 |
令和2年 | 734万1千頭 | 862万4千頭 |
令和3年 | 710万6千頭 | 894万6千頭 |
上表の通り、犬の飼育頭数は令和元年と比べても約47万頭減少しています。
犬の飼育頭数は2008年をピークに急激に減少しています。
この傾向は高齢化や単身世帯の増加などの社会構造の変化が要因とされています。
特に犬は、費用や手間の都合上、飼育するハードルが猫よりも高いです。
その上、今後ペットを飼育したいと考えている人も減少傾向にあります。
近年動物病院は、動物病院の数は増加しているものの、ペット数は減少傾向にあります。また人員不足で集客や求人になかなか手が回らないのが現状です。
動物病院の3つの主な課題
動物病院を経営するうえで問題となることが多い3つの課題について解説していきます。
競争の激化

ペット数は減少している一方、動物病院の数は増えています。
そのため競合の数は増加の一途をたどっています。
特に1都3県では、2014年からの5年間で1,156件もの新規開業がありました。
しかし日本の人口も2011年以降は減少傾向となっており、それに伴い今後さらにペットの飼育数は減っていくとみられ、動物病院同士の競争は激しくなりそうです。
また高齢犬の数が減り始めていることも懸念材料のひとつです。
高齢犬は医療費が多くかかるので、経営を大きく支えています。
実際、高齢犬の方が頓服薬の投与や手術が必要な場合が多いです。
しかし2017年頃から高齢犬の数が減少し始めました。
高齢犬の減少は動物病院経営にダイレクトに影響を与えてしまいます。
今後動物病院は高齢犬の減少、ペット飼育数の減少、動物病院の増加と厳しい状況が続き、少なくなった顧客を獲得するためにますます競争は激化していくでしょう。
獣医師不足

小動物獣医師の数は近年一貫して増加しています。
しかし勤務医を雇っている動物病院は全体の約25%しかありません。
その中でも勤務医数名程度の病院では獣医師が数年で退職したりと変動が激しいです。
そのため、結果的に慢性的に人手不足となってしまっています。
なお退職理由として多いのは以下の理由です。
- 開業や独立
- キャリアアップのための転職
- 結婚や出産
数年勤務医として経験を積んだのちに開業、独立する人や、キャリアアップのために退職する人が多いですが、女性獣医師の結婚・出産での退職も多くなっています。
しかし近年、40歳代以下の獣医師の半数近くは女性獣医師になると言われています。
そのため近い将来女性獣医師が過半数を占めると予想されます。
だからこそ今後はより女性獣医師の復職支援を充実させることが必須です。
現状として、女性医師や女性歯科医師の無職率が1%程度なのに対し、女性獣医師の無職率は6%で、働けない状況にある女性獣医師が多くいます。
これからの動物病院経営は、勤務条件や職場の環境を向上し、労働意欲のある人材を活用していくことが重要となるでしょう。
市場の縮小

犬の飼育頭数の推移や高齢犬の減少から見て、今後動物病院の市場規模は縮小していくと懸念されています。
動物病院において、犬は猫よりも年間診療費が高く、特にワクチンやフィラリア症といった予防の費用は犬と猫で大きな差があります。
そのため犬による医療費が動物病院の経営を大きく支えているのが現状です。
犬の飼育頭数が減少し続け、医療費がかかる高齢犬がさらに減少していくことは、さまざまな動物病院の経営に影響を及ぼし、動物病院市場は徐々に縮小していくと予想されています
動物病院では、動物病院数増加による競争の激化や獣医師不足が課題となっています。またペット数の減少が続くことによる動物医療の市場規模縮小も大きな課題です。
動物病院の課題解決方法
今後の動物病院経営における課題を解決する方法を3つ解説していきます。
他病院との差別化

顧客獲得のために他病院との差別化を図ることは今後さらに重要になってきます。
近年増えているのが「猫専門動物病院」や「鳥専門動物病院」、「エキゾチックアニマル専門病院」など、動物種を限定した動物病院です。
というのも動物種を限定することで、より専門性に特化でき、差別化を図れるからです。
例えば獣医師はその動物について、より深い知識を得ることができます。
さらに医療機器や薬を幅広く揃える必要がなくなり、コスト削減にもつながります。
他方で顧客側も、飼育している動物種に対し専門的な知識を持った獣医師に診てほしいという人も多く、顧客のニーズに合っている経営方法だといえます。
また歯科や眼科、循環器科など特定の診療科目に特化した動物病院も増えてきています。
動物病院は従来、あらゆる動物種の病気やケガを総合的に診るのが一般的でした。
しかし特定の診察科目専門の動物病院とすることで、人と同程度の高度な医療を求める飼い主には需要があり、他病院との差別化へとつながります。
その他にも、予防接種や健康診断といった予防医療のみ行う動物病院、往診専門の動物病院など、地域ごとの顧客のニーズに合わせた動物病院ができてきています。
ペットの飼育頭数が減少していく中、他病院と差別化を図り、市場や顧客のニーズをくみ取れる動物病院が生き残っていくことになるでしょう。
業務のDX化

動物病院の業務をDX化して業務効率化することで人手不足解消に繋がります。
確かに電子カルテは多くの動物病院で既に導入されています。
しかし診察のオンライン予約やオンライン診療などにも注力することが望ましいです。
実際、いくら腕の良い獣医師がいたとしても、待ち時間が長かったり、どれくらい待てば順番がくるのか目途がつきにくいと、顧客の不満へつながります。
そこでオンライン予約を導入すれば待ち時間を短縮でき、満足度も上がるでしょう。
またオンライン診療の体制が進んでいくことも期待されています。
定期的な経過観察や頓服薬の処方などにおいては、動物病院に来院しなくとも、オンラインで診たり様子を聞くことで対応できるケースが多くあります。
これは動物にとって通院のストレスが減り、顧客も獣医師も時間を効率よく使えるとメリットが多いため、今後増えていくでしょう。
なお、おすすめの予約システムは下記の記事で詳しく紹介しています。
併せて読んでいただくとDX化についての知識が深まるかもしれません。

SNSによる集客力の増強

新規の顧客を獲得するには集客力を増強しなければなりません。
動物病院の集客に効果的な時期は、秋から冬だといわれています。
春は、犬の狂犬病やフィラリア症予防などで、多くの動物病院が顧客に予防を喚起するダイレクトメールなどを送っており、集客活動が多く行われます。
逆に言えば秋から冬は、他病院は集客活動しない時期になります。
だからこそ、秋や冬に宣伝しておいて顧客をつかむことが大切です。
宣伝方法にはチラシのポスティングやダイレクトメールなどがあります。
しかし近年はSNSでの集客が非常に効果的です。
というのもSNSは幅広い層に利用されている費用対効果に優れた集客方法だからです。
内容は動物病院の紹介だけでなく、動物の豆知識や時期によって注意したい病気の紹介など、読んでいてためになる情報を、出来れば毎日更新するといいでしょう。
ただし動物病院には「獣医療広告ガイドライン」が制定されており、広告行為に違反があると罰金・業務停止や最悪の場合獣医師免許取り消しが適用されてしまいます。
そのためガイドラインをしっかり把握した上で集客することが重要です。
駐車サービスによる集客力向上

集客にあたってもうひとつ重要なのが駐車場の大きさや近くにコインパーキングがあるかです。
動物病院は動物を車で連れてくる人が多く、駐車スペースが十分でないと集客につながりません。
コインパーキングでも、病院側でコインパーキングチケットを購入し、動物病院の利用者は無料で止められるようにする、といったサービスがあるといいでしょう。
動物病院の課題を解決するには、他病院との差別化を図ることや業務をDX化し顧客満足度や診察効率を上げること、また集客に力を入れることが大切です。
そもそも課題を起こさないためには
競争の激化や市場縮小といった動物病院の課題に対し、問題が起きないようにするために重要なポイントを2つ解説していきます。
専門性の高度化

顧客を獲得し、経営を安定させるためには専門性の高度化が重要です。
近年、ペットを家族の一員として育てる考え方が浸透しており、動物の治療に関して人と同レベルの高度な治療を求められるようになっています。
町の動物病院でもCTを導入していたりと、かかりつけとしてだけでなく二次診療レベルの治療ができる動物病院も増えているようです。
獣医療も日々進歩しているため情報にアンテナを張り、新型の医療機器を導入したり、新たな治療法に挑戦したりと獣医師自身もレベルアップしていく必要があります。
また眼科や歯科など、得意な分野をより突き詰めたり、予防医療のエキスパートになったりと得意分野の専門性を高めていくことが集客にもつながっていくでしょう。
戦略を練る

どんな特色のある動物病院にするか、病院経営の戦略をしっかり練ることも重要です。
戦略を練る方法のひとつとして、コンサルティング会社への依頼が挙げられます。
コンサルティング会社の中には動物病院の経営に特化したものもあり、経営状況などからどのように経営すると経営が安定するのか、集客につながるのかなどアドバイスを得られます。
動物病院とひとことで言っても、開業目的や診療方針、環境はそれぞれです。
状況をしっかりと見極め、目標に向けてどのように経営していくか戦略を練ることが大切です。
動物病院の経営を安定させるには戦略を練る必要があり、経営の専門家にアドバイスを求めることも大切です。また専門性を高度なものにし、顧客ニーズに合った診療ができるよう、獣医師自身が日々スキルアップしていかなければなりません。
まとめ

動物病院は、ペット数の減少や動物病院数増加による競争の激化、獣医師不足などさまざまな課題をかかえています。
他病院との差別化や集客力の増強などだけでなく、獣医師個人のスキルアップを図り、顧客のニーズに合った経営を目指しましょう。